随分昔のことになりますが、自分で所持している長期保管のPC Engine DUOの基板をフルメンテした際、基板配線で傷んでいる箇所を直しても、どうしても音声のノイズ(音割れ)が取れずに悩んでいました。
…がしかし、RGB化など色々と施術をしているうちに、きれいにノイズがなくなっていました。
その時は「AV端子を交換したから、きっと錆びていたんだろう」程度の推測で終わったのですが…
ヤフオクで落としてきたPCエンジンDUOをフルメンテしている時の事です。
基板のチップ電解コンデンサの全交換など一通りのメンテナンスが終わり、動作確認をしていました。メンテ当日は何も問題が無かったのですが、次の日に引き続き動作確認をしようとした所、AV出力にのみ、内蔵音源やCD-DA、ADPCMの全ての音声にノイズが乗っている(音割れしている)のです。ヘッドホン出力の方にはノイズは乗っていません。
そして、暫くするとノイズが消え、電源を切って暫くして再び確認すると同様にノイズが復活するのです。
「じゃあ前と同じでAV端子でも交換してみるか」というノリでAV端子を新品に交換してみたのですが…ノイズは消えません。
「これは徹底的に解明するしかない!」
という事で、今回の記事に至った次第です。
早い話が、基板洗浄で直りました。ただ、基板全体を浅く広く洗浄したところで、余り意味は無いように見えますので、どこを重点的に洗浄するのかがポイントになるかと思います。
まず、PCエンジンDUOの音声周りのざっくりとしたブロック図を示します。
全音源にノイズが乗るということは、ミキサー以降の回路で何らかのトラブルが発生していることが考えられます。
DUOの回路図は、GitHubで公開されています。本当に感謝の言葉しかありませんが、リバースエンジニアリングされたものであるため、扱いには注意が必要です。
https://github.com/Board-Folk/PC-Engine-Duo
フリーライセンスのKiCADをインストールすると閲覧することができます。
ミキサー回路周りの回路図は以下のようになっています。今回は、この中で「CH-1」と「CH-2」の部分をオシロスコープで計測してみます。
efu氏作の「WaveGene」を使用して1KHzの正弦波の.wavファイルを作成し、それをオーディオCDに焼きます。
それをDUOで再生し、オシロスコープでオペアンプ出力(CH-1)とAV出力コネクタの足(CH-2)の2つを観測してみたところ、見事にAV出力側にノイズ(音割れによるクリップ)が観測されました。
スピーカーから出る音も「プー」という音に「ジー」というノイズが混じっています。そのまま暫く見ていると、欠けている上側の波形がニョキニョキと生えてきて、3分程でおよそ正常な正弦波になります。
つまり、回路のこの間(CH-1、CH-2)で何らかのトラブルが発生していることになります。
ダンパー抵抗から先にはトランジスタ(Q604)を使ったポップノイズ低減回路があります。このトランジスタか、ダンパー抵抗自体の故障を疑いました。
ちなみにポップノイズ低減回路とは、電源ONの時のポップノイズ(スイッチを入れるのと同時に「ボコッ」と鳴るやつ)を低減するための回路で、電源投入時はトランジスタがON状態(すなわち音声がミュートされている)になり、一定時間経つとベース電圧をコントロールしてトランジスタをOFFにします。まともなオーディオ機器にはちゃんと搭載されているものです。もっとまともなオーディオ回路には…ry)
まず、ダンパー抵抗は1KΩで正常です。そしてトランジスタもテスターを使って確認したところ、きちんとトランジスタとして認識されており、正常でした。
暫く途方に暮れていたのですが、、、
残るは基板の損傷を疑うしかありません。
確かに、この周辺は最終段のバイパスコンデンサから漏れた電解液の射程範囲内(?)ではあります。
電解液は絶縁体ですが、銅を含む基板パターンを侵食すると、抵抗成分を持つ液体となり、回路を短絡することは知られています。
ということで、その辺りの基板配線をビアも含めてテスターで当たってみたのですが、一切異常はありませんでした。しかし、やはり相変わらずノイズは乗っています。
「やっぱり基板洗浄しかないかー」ということで、最終段の10μFの電解コンデンサーからAV端子にかけて徹底的に基板洗浄を実施してみました。
基板洗浄をした箇所は以下写真の赤丸のあたりです。ここを中心に基板の両面、特にビアの周辺を綺麗に洗浄します。
折角取り付けたのですが、、洗浄のために予めコンデンサは取り外しておきましょう。
エタノールを基板に噴霧し、ブラシでこすります。ブラシに着いた汚れは、ティッシュペーパーなどでこまめに拭き取ります。
使用した材料はこんな感じです。
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消毒用エタノール
いわゆるIPA(イソプロピルアルコール)で、よく公共施設の入り口にある手の消毒液の原液で、工業用でもフラックスの洗浄などに使われています。傷口の消毒用に薬局で売ってるやつですね。
無水エタノールの方が乾きは良いのですが、何しろ酒税云々(水割りにするなりロックやサワーでも飲用できなくもないらしい)で高価な品物であるため、基板洗浄などにジャブジャブと使えるものではありません。 -
化粧用の携帯スプレー
アルコールOKのものでないと、不純物が溶け込んでしまいますので注意が必要です。
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歯ブラシ
歯ブラシは、毛先の硬さは「ふつう」、長さも「ふつう」を使っています。基板はレジストという薄いコーティング層があるため、堅いブラシは避けるべきです。レジストは綿棒でこするだけで剥げてしまうくらいデリケートなコーティングですから。
そして、仮組してCDを再生。
オシロスコープでミキサー出力とAV端子の足を計測してみたところ、ノイズは乗っていないように見えます。数時間放置後、再び計測してもやはりノイズは乗っていませんでした。
そして、音も綺麗な正弦波の「プー」という音で、ゲームをプレイしてもノイズ感はありません。ビンゴ!でしょうか。
原因として疑われるのは、ポップノイズ低減回路の短絡で、中途半端なミュート状態になっていたのが疑われます。電源ON後、暫くして復旧する現象からしても、かなり怪しいです。
ということで、解決したのでした。